車内の美人は?

筍掘りに行こうと、久しぶりに急行電車に乗った。
朝8時頃の込む時間帯だが、始発駅なので座る事ができる。

腰をおろしてやれやれと思っていると、斜め前に20代と思われる女性が座った。
オレンジ色のコートに、編みあげサンダル。 耳には、大きなイヤリングがぶら下がっている。 おしゃれなファッションで、大きな鞄はいかにも今から出勤途中かと思われた。 ただ、服装のわりに素顔なのが気になった。
「皮膚が荒れてお化粧ができないのかな?」 
春先はアレルギーの出やすい時期だ。

土曜日なので、車内はほどほどの混みぐあい。
そのうち電車が走り出すと、女性はおもむろに鞄から化粧品を取り出した。 それからの私は、人間ウォッチングの時間となる。

まずはファンデーションを、ニキビ跡の残る顔に塗っている。
顔色がよくなりニキビも気にならなくなった。
景色を見ているちょっとの間に、髪の毛と同じ色の眉毛ができている。
口紅を薄く塗って、アイシャドーも・・・
コンパクトを見ながら、なかなか慣れた手つきである。

そのうち、つけまつ毛を取り出した。
私は「つけまつ毛」をした事がないので、どうやってつけるのかが気になった。
さりげなく見ていると、左目の端から少しずつ押しこむように貼っている。
車内は揺れるので、何度かゆるめたり貼ったりの繰り返しだが、最後にはピタッと瞼に収まった。
すると驚いた事に一重まぶたが、1、5倍のパチクリした目になっていた。
もうこれだけで、素顔からは想像できない今ふうの顔になっている。
揺れながらも、きちんとつけまつ毛がつけられた事に、ただただ驚いた。

電車は30分ほど走り、間もなく終点の駅に近づこうとしていた。
もう片方の目はどうするのだろう?
気になって見ていたら、焦ることなく普通に電車を降りて行った。


.entry-content { font-size:18px; }